東京工芸大学 芸術学部フェスタ2020 電子図録

19 書体デザインのモデルとしての 蔡国金文 列国金文をモデルとした書体デザインを行 うにあたり、『殷周金文集成(修訂增補本)』(中 國社會科學院考古研究所,中華書局,2015) から、モデルとなる銘文を選定した。 蔡国金文は、次の条件から、書体のモデル として適当である。まず、製作国が明らかで あり、書体のモデルとして参照するべき器物 が明確である。次に、解読された字種数が多 い。長文銘の器物が複数発見されており、文 字同士を比較しながら共通点を抽出するのに 適している。そして、造形の様式化の度合い が高い。 書体デザインの視点から見た 蔡国金文の特徴 字数の多い「蔡侯尊」「蔡侯盤」から、12 種類の字を選び、形態の様式化を試みた。 12 種のサンプル作成から、蔡国金文の特徴 を次のように結論づけた。 プロポーション 極めて縦長であり、おおよそ 3 ~ 5:1 で ある。画数の多い文字は横幅が広がる傾向 がある。 重心 高い位置にあり、目視の限りでは上から 3 分の1あたりにある。 字画の形 直線的な長脚の印象が強いが、縦画はゆる やかな曲線を描く。横画はほぼ直線である。 字画の抑揚 ほぼ均質であるが、屈曲点がやや太る。 字画の端点 尖っているものが多く、字画の先端は細く なると推測される。しかし、素材の劣化が 拓本に表れたことによる可能性もある。 基本の字種からの展開 こうした過程を経て、蔡国金文は縦長のプ ロポーションとすっきりと上下に伸びた字画 が特徴と言えると結論づけ、その印象の再現 を念頭において字種数を拡大した。 一見直線的な近くの印象とは裏腹に、複数 字種へ蔡国金文の印象を再現する過程では、 柔らかく曲がった線を多く発見した。蔡国金 文は曲線と直線が共存する書体といえるので はないか。今回製作したモデル書体では、字 画そのものの形と抑揚のコントロールによっ て、すんなり伸びるまっすぐな字画の印象を、 曲線によって再現することを試みている。 文字上部に 字画が集まる 字画先端は 徐々に細る 直線の字画にも ゆるやかな曲線を含む きついカーブでは 字画幅が引き締まる 横画は 直線に近い 縦画の下方は ゆるやかにカーブ する例も多い ゆるやかなカーブで 字画幅が広がる 「蔡侯尊」銘文(殷周金文集成 より) 蔡国金文の特徴(左より、「命」「陟」「月」) 展開後の蔡国金文書体サンプル(点線内は基本となる12字種)

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